沢木耕太郎の小説おすすめ10選｜代表作や名言は？エッセイ本も

本の読み方や好みはいろいろですが、中には小説・ノンフィクションを問わずリアルな筆致に触れることで、未知なる世界への憧れや好奇心を育てている方もいることでしょう。そんな方におすすめの作家の1人が沢木耕太郎です。

沢木耕太郎はノンフィクションライター・写真家の顔も持ち、克明な取材に基づく内容、具体的で読みやすい文体は、読者を未知の世界に引き込みます。特に代表作『深夜特急』は多くの人を海外へといざなったといわれ、名言も多いです。

本記事では、そんな沢木耕太郎の魅力を紹介いたします。小説やエッセイ本などのおすすめ作品や新作も挙げていますので、ぜひ参考になさってください。

沢木耕太郎は東京都出身の作家です。就職して初出社するその日、スーツを着て雨をよける自分に虚しさを感じて即日退職したという仰天エピソードの持ち主ですが、それはご本人の自由な感性を物語るエピソードでしょう。

退職後、ルポを中心とした執筆活動に入り、数々の作品を世の中に送り出します。おもなジャンルは旅やスポーツに関するノンフィクションやエッセイですが、2000年に出版した「血の味」を出発点に、小説作品も何作品か発表しています。

ノンフィクションの定義は「史実、事実、記録などに基づく、創作の入らない読み物」となります。沢木耕太郎のそれは、まるで「事実に基づく文学」とでも呼びたいような作品が多数です。

『深夜特急』は、沢木の代表作で、自身の旅の経験に基づく紀行小説です。「インドからイギリスまで路線バスを乗り継いで、成功したらロンドンから電報を送ってみせる」と友人と賭けをした、「私」のバックパッカー旅の顛末を描きます。

ごく普通の青年がいろいろなアクシデントを越えていく内容はエキサイティングで、「バックパッカーのバイブル」とも呼ばれました。「さてこれからどうしよう、と考えて決めることができるのだ。それだけでも旅に出てきた甲斐があるように思えた。」など、ひとりで海外に行く勇気を与えた名言も多いです。

元東洋（OBF）ミドル級王者の引退プロボクサー・カシアス内藤が、その4年後に現役復帰、トレーナーのエディ・タウンゼントともにふたたび世界王者を目指す姿を、沢木の目で描き出した作品です。

もともと親交があったこともあってか、沢木は内藤の日常生活、試合などについて、いわば密着に近い踏み込んだ取材を行っています。それに基づき丁寧かつ熱い筆致で描かれた本作は、第1回新田次郎文学賞を受賞するなど高い評価を受けています。

『イルカと墜落』はアマゾンへ取材に行く途中で、乗っていた飛行機が墜落する事故に遭った体験をつづった作品です。単行本のほか、文庫本も発売されています。

死者・重傷者が出なかったのは奇跡と言われるほどの大惨事にもかかわらず、できごとを淡々とした文体で客観的に伝えているため、飛行機事故からの生還をリアルに追体験できます。

『流星ひとつ』は歌手の藤圭子が28歳で引退する直前に行われたインタビューを書籍化した作品で、彼女の死去後に出版されました。全編を通して質問と回答だけの会話形式となっています。

生い立ちや子供時代、芸能界・恋愛など、沢木の率直な質問に誠実に答える姿から、聡明で正義感が強く、それでいて純真な藤圭子の素顔が見られます。

沢木耕太郎の小説は、事実に基づいて書かれたものと比べると、さほど数は多くありません。そのなかから二作品をピックアップしました。

新聞連載で話題を呼んだ小説です。最高傑作として有名で、2023年8月には映画化もされた作品です。若き日にボクシング世界王者を目指すも挫折し、現在は事業家となっている広岡仁一を主人公に、若き日のライバルだった3人の仲間と始めた共同生活と、それが行き着く先を描きます。

「ボクシング」に心を残し、ゆえに今の人生に幸せを感じられずにいる男性たちの姿を通じ、老いや区切りといったテーマを盛り込んでいる一方、エンターテインメント性も健在であり、レビューでも「読みやすい」という声が多数みられます。

カジノを舞台に人々の人生を描いた小説です。夢を失ってふらふらとマカオに流れ着いた青年・伊津航平がカジノで「バカラ」に出会い、のめり込んでいくなかで人間模様が動き出します。

「香港からマカオへ入り、マカオでカジノにのめりこむ」という流れは、実は「深夜特急」の中にもあるエピソードです。小説ですが、作者の実体験はやはり色濃く反映されているのでしょう。

体験、実感などを思うがままに綴るエッセイという形式は、沢木耕太郎が得意とする形式と考えられます。受賞作品を含め2作品を紹介します。

沢木耕太郎の初期に近い頃のエッセイ集で、講談社エッセイ賞受賞作品です。ひとり飲みのバーカウンターで、隣り合った人ととりとめなく会話していくがごとく、スポーツや本や映画から賭け事まで、さまざまなネタが飛び出してきます。

30年前の作品であるため、多少ネタに古めかしさを感じることはあるかもしれませんが、知的で読みやすい文章は読む人を離しません。

1996年に発表されたエッセイ集です。タバコを口から離さず、次から次へと吸い続ける「チェーンスモーカー」のごとく、ある話題からこの話題を引き出し、このフレーズから次の話を導き出すというように、15編のエッセイがつながりあいながら続きます。

エッセイというカテゴリーなのですが、気づくと短編小説を読んでいるように錯覚させられます。飽きることなく最後まで一気に読まされてしまう作品です。

沢木耕太郎は近年も各所への寄稿や連載を行っています。それらの連載から書籍となった2作品について、どのような作品なのか見ていきましょう。

「銀の街から」は、朝日新聞紙上で長期連載している映画エッセイを書籍として刊行したものです。「銀の街から」だけでなく「銀の森へ」がありますが、後から刊行された「銀の森へ」のほうが連載前半期の内容となっています。

映画そのもの以上に映画の良さを書き、読んだ方を映画館へ、もしくは自宅での視聴へと向かわせる、その秀逸な筆致は高い評価を受けています。

「旅のつばくろ」は、JR東日本の新幹線車内誌「トランヴェール」連載の人気エッセイが単行本化されたものです。

「深夜特急」で壮大なバックパッカー旅を書きながらも、国内の旅について書いたものは少なかった沢木耕太郎ですが、各所のレビューには「やはり旅に出たくなる」という言葉が並びます。そこにいきたいという気持ちにさせる筆致は、沢木耕太郎ならではでしょう。

沢木耕太郎は75歳を過ぎた現在も作品を発表し続けています。最新刊は2022年10月に出版された『天路の旅人』です。発売から3ヶ月で10万部を突破したことでも、話題となり新たな代表作と言われています。

第2次世界大戦の末期に、日本陸軍の「密偵」として中国に潜入した、西川一三の旅の軌跡を書いています。西川一三の著作に加え、自ら行った1年間のインタビューを基に、25年かけて完成させた沢木史上最長の作品です。発売後に即重版となるほどの高評価を集めています。

ノンフィクション文学の第一人者でありエッセイストであり、さらに写真家としての顔も持つ沢木耕太郎の作品は、読みやすくも臨場感があり、とても魅力的です。知らない土地、知らない世界を本を通じて旅したい方は、ぜひ沢木耕太郎を手に取ってみてください。こちらもあわせてご覧ください。