幸田文の小説おすすめ8選｜特徴・魅力は？おすすめ作品もご紹介

幸田文は幸田露伴の娘であり、生まれながらに文才に長けているのではないかと思われますが、実際に筆を取ったのは、露伴没後の43歳の時です。文豪・露伴の記録としてまとめた手記は、緻密な観察眼・活き活きとした表現力が評判となり、筆を執るようになりました。

幸田文は負けん気の強い性格でしたが、当初生母と同じように世話女房となるつもりでした。幼少の頃から絶対的な父からの教育・継母との確執のなかで、豊かながらもさまざまな経験をします。たくましく生きる幸田文の姿は、同じ昭和を生きる女性たちの共感を得ました。

そのような幸田文のおすすめの作品や、幸田文の生い立ちや作品の生まれた背景、父宇田露伴・娘青木玉についてもご紹介します。

幸田文は1904年（明治37年）9月1日に、幸田露伴の次女として生まれました。6歳で母を亡くし、8歳で姉と死別しています。父露伴はその後再婚しましたが、継母は家庭的な人ではなく両親が不和の状態の家庭で、弟とともに思春期を送ります。その弟も19歳で亡くなっています。

そして、24歳の時に清酒問屋に嫁ぐも10年後に離婚し、娘の玉を連れ父の元に戻ります。その後は父の世話をし、父の死後には執筆活動に取り組みます。1988年に脳溢血で倒れるまでは精力的に創作活動・社会活動に励み、1990年10月31日に86歳で亡くなりました。

幸田文の生まれた家は、父露伴により「蝸牛庵」と称され、東京府南葛飾部郡寺島町（現在の墨田区東向島）にありました。浅草に程近い隅田川沿いで、近くを荒川も流れており、水害の心配もありました。生母が亡くなった6歳の時隅田川が氾濫し、弟とともに叔母の家に預けられます。

関東大震災では家周辺の被害が大きく、一家で小石川に転居。太平洋戦争では東京大空襲で家が焼け、千葉県市川市に疎開。そこで露伴の最後を看取りました。

その後は小石川に戻って創作活動に励み、晩年までそこで暮らしました。小石川は昔から文豪が多く集まる土地であり、閑静で文化的な環境のなかで仕事ができたと思われます。

露伴が勢力的に作品の幅を広げている37歳の時に文が生まれました。早くに生母を亡くした姉弟のために、家事全般について露伴自ら教育しています。その指導のユニークさは随筆に描かれています。反面、露伴は再婚相手と折り合いが悪くなり、文の思春期には辛い思いもありました。

露伴の母は6人兄弟それぞれを名のある人物に育てた、多芸な人物だったようです。中でも露伴の妹の延と幸は、戦後日本の音楽界に大きな貢献しています。紀尾井町に住んでおり、親族間での交流も多く、幸田文・青木玉の随筆にも度々登場します。

幸田文の娘である青木玉は1929年生まれで、祖父の露伴にも可愛がられて育ちました。母と共に露伴と住むようになってからは、露伴から温かくも厳しく躾けの指導を受けています。そして祖父の晩年を支え、母をも見送った時の話はエッセイ『小石川の家』に著されています。

また、幸田文の作品の編者も務めており、それは娘でエッセイストの青木奈緒にも受け継がれています。

幸田文は父露伴没後の43歳から約30年間に渡り、数多くの作品を発表しています。随筆では失敗談も含め、私生活を世間に披露するのは、かなり勇気が入ります。しかし、そこに一人の人間としての親しみが感じられます。自身の体験から書かれたものが多く、リアルさがあります。

露伴や自身の体験を書いた随筆は評判を呼びましたが、その後断筆宣言をしています。47歳で柳橋の芸者置き屋の住み込み女中として、病気になり辞めるまでの1年あまりを過ごしました。そして50歳以降はその経験も活かして、また執筆に精を出すようになります。

『黒い裾』（読売文学賞受賞）・『流れる』（日本芸術院賞・新潮文学賞受賞）・『おとうと』と立て続けに発表し、作家としての地位を固めました。『流れる』・『おとうと』は映画化もされています。

一人暮らしを始めた57歳以降、『台所のおと』・『闘』（女流文学賞受賞）・『きもの』などが代表作です。

随筆では、幼少の頃の父との思い出・家族や知人との関わり・自然や食べ物などへの思いが綴られています。生涯で関東大震災・太平洋戦争を経験し、貧しく苦しい状況が多かったようです。しかし、父・家族を思う幸田文のたくましさ・行動力は読者に感動を与えました。

露伴の死後、発表した『父』『こんなこと』は露伴との思い出がいっぱい詰まった作品です。継母が家事が苦手なため、14歳から父に付いて家事を仕込まれた様子が「あとみよそわか」等に書かれています。父親が、子どもの心に残る形で教育している父娘関係は、いつの世でも理想です。

幸田文の作品は流れるような口語調の文章と、臨場感のある会話のやりとりが特徴的です。読むにつれ、読者は作品の世界にぐいぐい引き込まれます。また、女性ならではの細やかな観察により、具体的な背景がイメージしやすいのも読みやすいものとなっています。

幸田文には江戸っ子の気質があるようです。それが主人公の行動力・歯切れの良い会話に表れています。あれこれ悩みながらも、さばさばした物言いには小気味よさがあります。

『おとうと』では、姉「げん」が弟「碧郎」の将来を心配に思いながら、自身の境遇に抗って前向きに力強く生きていく様子が描かれています。

幸田文の文章は情景描写が細かく、場面をイメージしやすいです。人物においても顔立ち・服装まで細かに描かれていて、人物の特徴が表れています。特に和装の髪型・着物の柄などにこだわりを見せています。

『流れる』では、芸妓たちの日常生活はもちろんですが、戦後の時代の変化の中で焦りを感じている女性たちの気持ちについても細やかに描かれています。

語感の良さ・言葉の言い回しのリズム感は、なかなか出てくるものではなく、父露伴との日々のやり取りでその土台が作られたようです。言葉の表現の豊かさ・擬態語などで活き活きとした文となっています。ぽんぽんとたたみかけるようなしゃべり口調も面白さを感じるところです。

幸田露伴の作品では『五重塔』が有名です。明治の文語体で書かれており、実直に努力した主人公が報われる物語となっています。また、随筆文の『努力論』では、物事に集中して取り組む大切さを説いています。露伴が実践した、精神的な美学が確立されてたものとなっています。

大正・昭和を生きた幸田文は、父の美学に触れながら多感な時期を過ごしています。絶対的な父に近づこうと、持ち前の行動力で独自の道を切り開いていきました。それが登場人物の負けん気であったり、悩み苦しむ姿であったりして、読者の共感を得ています。

幸田文の作品は、大正・昭和の激動の時代を生きる中で、強く生きる女性たちを描いています。そのモデルは自身でもあり、身の回りにいた人たちでもあり、その生き方は時代を超えても共感がされ読み継がれています。ぜひ、幸田文の小説・随筆を紐解いてみてください。

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