田山花袋の小説おすすめ10選｜青空文庫でも読める？代表作を解説！

「事実は小説よりも奇なり」とも言われるように、誰かの体験談というのは興味深いもので、最近ではそうした小説や漫画も人気を集めています。しかし、作者自らの生活や経験を題材にした小説、いわゆる私小説は現代だけのものではありません。

私小説とは、実は明治時代から始まった文学ジャンルの1つです。そして、日本で初めて私小説を書いた文学者が田山花袋です。田山花袋は自身や家族をモデルに、人間の変態性を赤裸々に描いた小説を発表し、日本の自然主義文学に大きな影響を与えました。

この記事では田山花袋の小説について解説します。『蒲団』や『少女病』といった代表作をはじめとしたおすすめの作品を紹介しますので、本選びの参考にしてください。また、人物像や死因・青空文庫での公開作品などの情報もお教えします。

田山花袋の読み方は「たやま かたい」、明治時代の作家です。尾崎紅葉の弟子で国木田独歩や島崎藤村といった文豪とも交流がありました。1907年に代表作となる『蒲団』を発表し、これが日本文学で最初の私小説とされています。その後も数々の文学作品や紀行文を発表し、1930年に58歳で死去。死因は喉頭がんでした。

田山花袋の出身地は栃木県邑楽郡、ここは現在の群馬県邑楽郡に当たります。それに関連して、群馬の郷土かるた「上毛かるた」（上毛とは群馬県の古称）には田山花袋が「ほ」の札（誇る文豪 田山花袋）で登場しています。また、田山花袋記念文学館が群馬県館林市にあり、彼に関するさまざまな資料が展示されています。

『蒲団』は田山花袋自身をモデルとした33歳前後の文学者が主人公です。彼は既婚者でしたが、弟子の若い女性に恋をしました。女性の彼氏や父親も巻き込んでいろいろあった後に彼女は去り、主人公は彼女の使っていた夜着や蒲団の匂いを嗅いで思いを募らせます。

このあらすじだけを見ると、気持ち悪いと感じてしまうかもしれません。しかし、不倫願望とそれに対する葛藤を赤裸々に描写している点と、恋愛感情を嗅覚で表現している点はそれまでの文学ではありえませんでした。そのため、日本文学史に残る作品と評価されています。

『田舎教師』は『蒲団』とは打って変わって、坦々とした日常生活を描いた作品です。文学を志しながらも、生活のため田舎の教師として働き始めた青年が主人公で、理想と現実との間で揺れ動く若者の心情が描かれています。

舞台である田舎の情景描写が細かく、登場人物の会話もリアリティがあり、そこで暮らしているような感覚を味わえます。複雑な恋愛感情ばかりではなく、こうした暮らしの中での葛藤を表現するのも、自然主義文学の特色です。

日露戦争中に従軍記者を務めていた経験のある田山花袋には、戦争を舞台にしている作品も多いです。その1つである『一兵卒の銃殺』は、いわゆるダメ男が主人公で、彼が兵役についてから銃殺刑を受けるまでを描いています。

主人公は若いうちから窃盗などの悪癖があり、兵隊になってもダメっぷりは変わりませんでした。やがて脱走して事件を起こし、最後は銃殺されてしまいます。何事にも無責任でつい楽な方に流されてしまう、そんな人の弱さを考えさせられる作品です。

年末年始やお盆など、長期休暇にゆっくりと読書したいなら、長編三部作の『生』『妻』『縁』をおすすめします。田山花袋の家族をモデルにした物語で、『生』は母が主人公です。戦争で夫を失った母は、封建的時代の中で家長として家を支えていきます。

そんな日々の中での、息子や嫁などに対する感情の浮き沈みが物語の中心となります。よくある一般的な家庭を舞台に、生と死を描いた作品です。そして田山花袋の妻を描いた『妻』、自身の思想について描いた『縁』へと続いていきます。

ちょっと空いた時間や寝る前のひとときに気軽に読むなら、短編がおすすめです。田山花袋は優れた短編も数多く書いています。『少女病』もその1つで、『蒲団』と同様に人間の倒錯的な感情を包み隠さず描いた作品です。

主人公は少女が大好きという性癖を持っている37歳の男性です。本人も病的だと自覚しており、犯罪に手を染めるまではいかないものの、変態的な思考と行動をやめられません。この主人公も田山花袋自身がモデルだそうです。

日常生活の風景や心情の動きをありのまま表現する田山花袋の小説は、時代を越えても変わらない、人間の情けなくも愛すべき本質を感じさせてくれます。気になった方はぜひ一度読んでみてください。

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