坂口安吾のおすすめ小説8選|作風や魅力的な逸話まで詳しく紹介

坂口安吾は没後60年以上が経った現在でも根強いファンがいる作家です。破天荒な言動にも注目が集まっていますが、作品に現れているピュアな心が坂口安吾の作風の特徴でもあり、人々の共感と憧れの両方を兼ね備えた作家ともいえます。

坂口安吾は反骨の作家ともいわれ、自分が感じた小さな疑問を適当に流さず、鋭い視点で主張をするタイプの執筆家です。その切れ味の良さがいつしか心地よい刺激になってしまう方が続出しています。

この記事では、坂口安吾について、その作風や魅力・作品の選び方のコツ・おすすめ作品・思わず驚いてしまうエピソードなどを詳しく丁寧にご紹介していきます。ぜひ記事を参考にして坂口安吾の作品を楽しんでください！

坂口安吾は、終戦後に一躍人気作家として脚光を浴びた無頼派作家のひとりです。無頼派とは、反逆精神や自分に対する批判などを厳しく追及する姿勢を持った作家一群を指して使われる言葉で、坂口安吾の他、太宰治・織田作之助・伊藤整などがいます。

坂口安吾は厳しいだけでなく「ラムネ氏のこと」など教科書でも取り上げられるウィットに富んだ作品も書いています。

坂口安吾の独特の世界観はときに暴力的でときに弱気で、そんな矛盾をはらむすべてが魅力的でかっこいいと人気です。型にはまらず精力的に執筆を続けた、ある意味真摯な姿勢について詳しくご紹介します。

坂口安吾は幼少時からガキ大将、かつ頭がよく、プライドも高い人間でした。本名を炳五（へいご）といい1906年に新潟県で生まれました。中学生になると近眼で黒板が見えないのを理由に勉学から逃げ、教師に「悪ふざけしているが根が暗いから暗吾（あんご）にしろ」といわれます。

本性は傷つきやすい人間性だったのかもしれません。

大人になった坂口安吾は、幼少期よりもさらにひねくれてしまい、手の付けようがない落伍者となります。大酒を飲み、ギャンブルに高じ、同じような落伍者として石川啄木やボードレールを愛読しました。

もとより才として持っていた文章の巧みさや視点の鋭さを活かし、執筆を自分の役割と考えるようになります。

執筆業をする前には、執筆者としての自分を何度も否定し、宗教や外国語など多彩な分野を学んでいます。そのため、作家となってからもひとつのジャンルにはとどまらず、私小説・推理小説・歴史小説・戯曲・評論など多ジャンルの作品を書きました。

否定・反逆・葛藤などが坂口安吾をして文章を書かせることになったといえます。

坂口安吾の作品はどれを選んでも驚きや感慨深さを覚えさせられますが、作品数がとても多いため、選び方のヒントを知っておくのがおすすめです。ヒントは「ジャンル」「長さ」「メディア化」から選んでいきます。

坂口安吾は一生涯の中でかなり多くのジャンルの作品を書き残しています。ジャンルの垣根に無意識で挑戦するような精神も感じます。最も有名なのは私小説ですが、童話や時代小説なども面白いです。

坂口安吾といえば「堕落論」など、自分を軸に語る作品が代表的で有名です。人間の滑稽さや心理のもろさなどを主張しますが、自分の弱さに開き直りそれを正当化しようともがく姿勢も感じられます。

人間らしさが溢れる作品が多くあります。1冊の中で何度も何度も自論を否定してはまた肯定するなどの足掻きが観られて興味深いです。

教科書に掲載されている有名な「ラムネ氏のこと」もまた、自分のふがいなさを題材に書いた作品といえます。解釈はさまざまですが、戦時中という時代背景の前で、書くしかできない自分の存在価値のようなものを考察しているという見方が有力です。

ラムネといったキャッチーな単語を通し、できるだけ多く人間に読んでもらえるよう工夫をしています。

坂口安吾は自分の執筆欲の矛先を推理小説や時代小説にまで広げています。私小説でなく、ミステリーや歴史ものなどでエンタメも極めようという想いがあったと推測されます。坂口安吾らしいのが、推理小説と時代小説を合わせた歴史探偵小説までを書き上げている点です。

エンタメでも妥協せず緻密な執筆をしています。

坂口安吾の戯曲は2作のみしかないといわれますが、その出来栄えにはパワフルさと瑞々しさがあり、才能を感じます。寓話である「夜長姫と耳男」や「桜の森の満開の下」は現在も朗読劇などで人気があります。

小説等の作品では非常に暴力的な表現を使う坂口安吾ですが、寓話などではソフトにオブラート的に物事を示しています。

坂口安吾のエッセーや評論は、小説よりも評価が高いともいわれます。小説よりも坂口安吾の生の声や気持ちが直接的に伝わってくるとの評価が多いです。同時代の日本人作家への批評や、ドストエフスキーなどの海外の大御所への評論を書いています。

エッセーでは歯に物着せぬ鋭利な言葉が飛び交い、特別な視点と才能を堪能できます。

坂口安吾の作品を選ぶ際、作品の長さを重要な選択肢になります。坂口安吾の作品は短編や中編が多く、しかしその難解さと緻密な表現力でさっと読み流せる内容ではない点に注意をしておきましょう。

坂口安吾の短編は、文章自体は決して読みにくいわけではありませんが、読み進めるのが難しい傾向にあります。さらっと読み進められるほど内容が軽くないため、短編でもじっくり読めるときを狙って読むのがおすすめです。

似た作風の作家に三島由紀夫がいますが、三島由紀夫も坂口安吾を敬愛していたとされています。

坂口安吾の中編作品は、中編といいつつ内容が濃厚ですので、長編を読むような時間をキープして挑むのがおすすめです。文章と内容の面白さに飲み込まれ、思わず時間を忘れて読みふけってしまう作品が多いです。

題材によっては興味がないと飽きてしまうので、選ぶ前によく確認してください。

坂口安吾の長編作品はかなり数が少なく、未完の作品もあります。未完の作品を読む楽しみ方がお好みの方はぜひ挑戦してみてください。推理小説の「不連続殺人事件」や新潟を背景に書かれた「吹雪物語」などが完結している長編です。

また、坂口安吾の長編は研究者にとっても魅力的と好評です。

坂口安吾の作品はさまざまなジャンルでメディア化されています。原作を読む前にメディア化された作品から入りたい方にも選びやすくておすすめです。独自のシニカルさが目立つものや幻想的なものがあります。

代表作である「白痴」は現代のタイトルそのままで映画化されています。映画化は不可能といわれていた作品を、見事にベネツィア映画祭での招待作品になるほどのクオリティーで撮り上げていて必見です。

NHKドラマでは、原作「明治開花・安吾捕物帳」が「明治開花・新十郎探偵帳」として放映されています。

坂口安吾の世界観はやや難しいため、漫画化されたものを読むのもおすすめです。「堕落論」や「白痴」などをわかりやすく読めます。また、坂口安吾の原作を軸にしたアニメ「UN-GO」や、坂口安吾がキャラクターになっている「文豪ストレイドッグス」も面白いです。

坂口安吾の個性を漫画やアニメで理解するのもとてもいい手段です。

坂口安吾には逸話が多々あり、どれもが作品に投影されている性格の激しさや心の奥に秘められた純粋さなどを示しています。また、坂口安吾を慕う作家や敬愛する作家が後を絶たないのも人気を裏付けます。

坂口安吾は本格的に執筆活動に入るまで、ボードレール・チェーホフ・谷崎潤一郎・石川啄木・芥川龍之介などを愛読しています。また、同世代の太宰治・中原中也とは褒めたりなじったりしながらも良い仲だったとされます。

坂口安吾が影響を与えた作家はとても多く、その中でも三島由紀夫は有名です。

坂口安吾にまつわる珍エピソードはたくさんあり、いずれも凡人には理解しがたいような事件ともいえる話ばかりなのですが、なんとなく坂口安吾だから仕方ないと思わせる不思議な感覚が付きまといます。

坂口安吾は書斎の掃除をほぼしませんでした。普通の人間なら耐えられないのですが、坂口安吾はそれを合理的と判断しています。進駐軍が散布した殺虫剤D.D.Pに対し、死んだ虫も風化して自然に帰る・掃除をすればホコリが舞うなどと受け入れ、万年床と万年書斎を貫きました。

写真家の林忠彦が強硬手段で撮った坂口安吾の書斎の写真が有名です。

浪費癖・ギャンブル癖で原稿料や家財を差し押さえられた坂口安吾は、檀一雄の家に居候していた時期があります。そこで、ある日、なんの理由も脈絡もなく100人前のカレーの出前を頼み、片っ端から食べ始めたといいます。

太宰治の死や抗うつ剤の類の乱用から精神不安定になっていたとも伝えられています。

インド哲学やフランス文学などもたしなんだ坂口安吾は、推理小説にも入れ込んでいます。自分で推理小説を書いたときには、犯人を当てた読者に原稿料をあげるとまで言って挑戦しています。江戸川乱歩にも挑戦状を叩きつけ、なんと勝利しました。

ただし、その推理小説は事件と絡まない犯人の心理が多く描写されていたそうです。

2021年に、坂口安吾の未発表原稿41枚が発見され研究者の興味を集めています。業者向けの古本市で発見されたようで、坂口安吾が人気作家になる以前の未完の作品と話題になっています。現代でも話題を集める坂口安吾の作品の多くは青空文庫でも読めます。

青空文庫には数ページの短い作品もあり、手軽で無料なのでおすすめです。

坂口安吾について、作品や本人の気質の魅力・作品を選ぶヒント・おすすめ作品・逸話の数々などをご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。破天荒でありながら繊細な作品を発表してきた坂口安吾をぜひ楽しんでみてください。

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