ノーベル賞候補！小川洋子の小説おすすめ9選｜特徴や短編集も

芥川賞と本屋大賞のどちらも受賞している唯一の小説家が小川洋子です。映画化された「博士の愛した数式」や「薬指の標本」を始め、多くのヒット作を生み出しています。小川洋子さんにしか書けない幻想的かつ温かい世界観が人気で、多くの言語に翻訳されています。

世界的な人気を博し、村上春樹さんと並んでノーベル賞に近い日本人作家とも言われている小川洋子さんですが、作品数が多いのでどれから読めばいいか迷ってしまう人もたくさんいます。

そこで今回は作風・代表作などを解説し、どんな人なのか探っていきます。またおすすめの人気作9選をご紹介。泣ける長編・読みやすい短編集も取り上げていますので、ぜひ読書の参考にしてみてください。

小川洋子は1962年生まれ、岡山県出身。エッセイでは金光教の信者一家で育ったと明かしています。早大卒業後の1988年に海燕新人文学賞・1991年に「妊娠カレンダー」で芥川賞を受賞します。

2004年に本屋大賞を受賞した「博士の愛した数式」など著作は多国語に翻訳され、2020年には「密やかな結晶」がブッカー賞候補となりました。ノーベル賞に近い日本人作家として注目されています。

小川洋子の作品には、他の小説では味わえない空気感が漂っています。現実にありそうでなさそうな設定や、日本が舞台の小説であってもどこか遠い異国の街が思い浮かんでくる幻想的な描写は、現実とファンタジーの隙間にいるような不思議な感覚に。その小説でしか見られない景色を見せてくれます。

美しい日本語も、小川洋子さの小説の特徴です。といっても難しい言葉はあまり使われません。読みやすさを保ったまま高い文学性を維持しているのが大きな魅力です。どこか突飛な設定であっても、適格で丁寧な描写と、流れるような読みやすい文章で、読者は物語の中に引き込まれていきます。

小川洋子の小説は、人間や生き物に対する温かい眼差しが込められています。人の死や難病など泣きやすいテーマの小説ではないのに泣ける小説は稀有です。人の温かさや時間の流れの切なさに、気づけばじんわりと泣かされます。動物への温かい目線に満ちた短編集「いつも彼らはどこかに」もおすすめです。

ここでは小川洋子の作品の選び方のポイントを紹介します。どれから読むか迷っている方は、ぜひ参考にしてください。

• 代表作：「博士の愛した数式」・「妊娠カレンダー」など。初めての方におすすめです。
• 映像化されている作品：「薬指の標本」・「人質の朗読会」など。映画・ドラマと一緒に楽しめます。
• 短編集：「海」・「寡黙な死骸 みだらな弔い」など。短くて読みやすいので初心者におすすめです。
• エッセイ：「アンネ・フランクの記憶」・「犬のしっぽを撫でながら」など。作者の人柄がわかります。

1991年の第104回芥川賞を受賞した短編「妊娠カレンダー」に、「ドミトリイ」と「夕暮れの給食室と雨のプール」を足した3編が収録された短編集です。「妊娠カレンダー」は、妊娠した姉の様子を妹がつづった日記で振り返る形式。妊娠を客観的に見る怪しさと美しさに満ちた、おすすめ作品です。

2004年の第1回本屋大賞に輝いたのが長編「博士の愛した数式」です。過去の事故の影響で、80分しか記憶が持たない数学者「博士」と、そのお世話をする家政婦、家政婦の一人息子、3人の交流が描かれます。決してあからさまな泣かせる描写はありませんが、登場人物への温かいまなざしに涙が流れてくる名作です。

ブッカー賞はイギリスの権威ある文学賞で、”ノーベル文学賞への第一歩”とも言われます。2020年にノミネートされた小川洋子の「密やかな結晶」は、秘密警察による「記憶狩り」が進む島で小説を書き続ける女性が主人公。

香水、切手、鳥などの記憶と概念が消えていく中、「小説」も消えてゆく――。幻想的ながらテーマにリアリティーがある作品です。

名作中編「薬指の標本」は2005年にフランスで映画化され、女優のオルガ・キュリレンコが主演を務めました。ピアノの楽譜・火事で負った火傷など、何でも標本にできてしまう標本技術師と、その秘書として働く若い女性の怪しい関係が描かれます。原作の言葉の美しさと幻想的な雰囲気が、映画でも表現されています。

2014年にWOWOWでドラマ化された「人質の朗読会」は、南米での観光中、テロで人質となり命を失った8人の日本人が残した録音を聞く形式の短編集です。

それぞれが平凡な人生の中で巡り合った不思議な出来事を語っていきます。どんな人の中にも、その人だけの愛おしい記憶が眠っているのを実感させてくれます。

長編「ホテルアイリス」は日本と台湾の共同製作で映画化され、2022年に公開されました。原作は廃れた海辺のリゾート地で、闇を抱える老人男性と少女が禁断の関係を結ぶ物語。映画では老人の設定が中年になり、永瀬正敏さんが演じました。相手役は台湾の新人女優・陸夏(ルシア)さんが務めています。

「ミーナの行進」は読売新聞に連載されていた長編小説です。1970年代の阪神間が舞台。12歳の主人公・朋子が、芦屋にある従妹・ミーナのお屋敷で過ごした1年を回想する形式です。朋子やミーナの成長・ミーナの一家をめぐる出来事などが丁寧に描かれ、過ぎた時間への愛おしさが募る一冊です。

小川洋子が初めて手掛けた長編小説です。たくさんの食べ物を食べるようになった女性大学生が主人公。彼女は食べたものを日記に書き残すようになり、何が過食の原因か探ります。教会に住み込みで働く弟との繋がり・恋した男性との別れ・親友との絆などが小川洋子ならではの描写で描かれていきます。

夫との離婚がきっかけで難聴になった主人公が、インタビューを書き留める速記者の男性の指に惹かれていく物語です。主人公は自分の思いを語り、それを速記者に書き留めてもらうようになりますが――。記憶の中の世界と現実とを行き来する美しい描写が際立つ、不思議な恋愛小説です。

2012年に「12年ぶりの書下ろし長編小説」として発売された作品です。人間の言葉は話せないけれど、小鳥のさえずりをよく理解した兄と、兄の言葉を唯一理解できた弟の物語。世界の隅でひっそりと過ごした二人の老人の、生きた証を書き残したような優しく切ない長編です。

デビュー作である海燕新人文学賞受賞作「揚羽蝶が壊れる時」に、「完璧な病室」「冷めない紅茶」「ダイヴィング・プール」を加えた4編収録の短編集です。最も初期に発売された作品で、瑞々しさも感じられます。弟・病院・水泳・孤児院など、小川作品によく登場するアイテムが、このころから登場しています。

小川洋子がファンと公言するシンガーソングライター・佐野元春さんとコラボした短編集です。「アンジェリーナ」「バルセロナの夜」「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」など、佐野さんの楽曲の歌詞からイメージを膨らませて書かれた10作の短編小説が収録されています。佐野元春さんファンも必読の一冊です。

後に作家となる女性が主人公の、連作短編集です。中でも女性の幼少期を描いた「キリコさんの失敗」は、中学受験・高校受験の国語の入試問題によく採用される名作短編です。これまで雙葉中学校・香蘭女学校中等科・東洋英和女学院中学部・山手学院中学校などで出題されています。中高生にも読みやすく、感動が残る作品です。

「寡黙な死骸 みだらな弔い」は1作1作がゆるやかに繋がる連作短編集です。どの作品も独立した素晴らしい作品で、さらっと読んだだけでは連作だと気づかないほどの小さな伏線が潜んでいます。怪しげなムードが漂い、どこから読んでも楽しめますが、中でも「果汁」は高校の現代文の教科書にも採用されている読みやすい作品です。

7作品を収録した短編集で、中でもおすすめの収録作が「バタフライ和文タイプ事務所」です。「日本文学100年の名作　第10巻2004～2013年」にも収録されている名短篇で、タイプライターの女性が「嚢」「膣」などの漢字に潜むエロティックさに引き込まれていく様子が真剣かつ、どこかユーモラスに描かれます。

ここでは2023年に発売する小川洋子の最新刊の情報をお届けします。随筆や対談集なので読みやすく、ファンだけでなく初めて小川洋子の作品を読む方にもおすすめです。

• 「からだの美」：2023年3月7日発売。「文藝春秋」で連載されていた随筆を集めた単行本です。
• 「川端康成の話をしようじゃないか」：2023年4月16日発売。佐伯一麦との対談集です。

人気小説家・小川洋子の作風やおすすめ作品をご紹介しました。どれも小川洋子の小説を読んだときにしか感じられない読後感を得られる作品ばかりです。気になった小説があった人は、ぜひ本を手に取ってみましょう。以下の記事もあわせてご覧ください。