代表作をチェック！国木田独歩の小説おすすめ10選｜自然主義小説の名作揃い

夏目漱石や芥川龍之介など、名だたる小説家から絶賛された国木田独歩。しかし、代表作やおすすめ作品のタイトルを、すんなり答えられる人は少ないようです。文豪ストレイドッグス（文スト）でも、国木田独歩の能力名は小説タイトルではなく、ペンネームの一つになっています。

実は国木田独歩は、自然主義作家の第一人者。しかし文ストの影響から、独歩を理想を追い求める四角四面の堅物と思っている人が多いかもしれません。しかし、その生涯は波乱万丈で、短い期間に発表された小説には激しい恋の残り香も見え隠れします。

編集者としても優秀で、企画創刊した「婦人画報」は現在も発刊中。この記事では今にもつながる国木田独歩作品のおもしろさ・おすすめの小説をまとめました。また人物のエピソードも紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。

明治4年に生まれた国木田独歩。今風にいえば「W不倫の上の子どもで親は略奪婚」と複雑な出生は、子供の独歩に影を落とし、その後の人格に大きく影響します。動乱の時代が背景にあるとはいえ、独歩はかなり悩んだようです。

成長後、理想を追い求める国木田独歩は、政治への野望を強くもっていたようです。しかし人生を考えた結果、熱狂的なクリスチャンとなり洗礼を受けたエピソードが残っています。ペンネームも数多く持ち、「独歩吟客」もその一つ。

やがて国木田独歩は浪漫主義から自然主義作家となっていきました。夏目漱石・芥川龍之介をはじめ多くの評価を集めましたが、残念ながらすぐに亡くなります。死因は肺結核でした。

江戸時代の文化が根強く残っているなかで生まれ育った国木田独歩。自身の日記などは文語体で書く中で、口語文体小説を模索して成功させました。今につながる口語文は、文語体と交わりながら始まりました。 

新時代である明治には、すべてにおいて若者たちは”新しい形”を模索していました。文学においても、”書き言葉も話し言葉と同じにして分かりやすく”と「言文一致」の波が起こります。しかし、それは異国語で書くように難しい作業でした。

”文章＝文語体”の時代、二葉亭四迷が最初の言文一致小説「浮雲」を執筆しますが、未完に終わります。その後、国木田独歩は「あるがまま」を目指し、口語体で名作を次々発表しました。

CM で宇多田ヒカルが「月光をして汝の逍遥を照らさしめ、山谷の風をしてほしいままに汝を吹かしめよ」と朗読したのは、国木田独歩の小説『小春』の一節。ワーズワースの詩の翻訳です。

独歩の小説は、口語体とはいえ旧仮名遣いであったり、引用文が文語体だったりと現代ではなじみのない文体です。そこに描かれているのは、約120年前の風景。小説を何度も読めば、国木田独歩の目を通して100年以上前の日本を旅できます。

国木田独歩以前の文学での自然描写は、人間の内面や状況を説明する役割がありました。写真を撮るように、きれいな自然を文に写し取ったのは独歩が最初です。あるがままを精密に淡々と描く自然主義小説を”物足りない”と評する人もいます。

見たままを写し取った文は、風景や絵画・写真に通じ、見る人や時間によって感じ方が変わります。「なぜかまた読みたくなる」のが、国木田独歩の小説。きれいな日本語で短編ながら、読み返すたびに新しい発見があるのです。

国木田独歩の作品は、わずか15年の間に発表されたもののみです。新聞記者として日清戦争に従軍したルポエッセイ『愛弟通信（あいていつうしん）』、随筆とも称される『武蔵野』など浪漫派であった初期から短編を得意とし、名作が揃っています。

まだ文字を読めない人もいた時代、新聞記者や教師・編集者でもあった国木田独歩は「読みやすさ」にもこだわったのかもしれません。詩のような短編小説もあり、本をあまり読まない人にもおすすめです。

明治期の文学者には多くの研究者がおり、文豪の人間臭いエピソードや、作品の裏の時代背景を知れます。国木田独歩だと、武蔵野の読み方や編集者時代の解説本などもおすすめ。

自然主義の描写的な小説は、エピソードや解説を読んでから読み返すと、絵画のにじみのように細かい、一度では気づかなかった部分が見えてきます。

”あるがまま”の国木田独歩の小説は”読む”より”感じる”ものなのかもしれません。国木田独歩ゆかりの地は、日本各地にあります。120年前の日本を小説の中で旅した後は、ゆかりの地を散歩するのもおすすめです。国木田独歩の世界を楽しみましょう。