林芙美子さんの小説おすすめ12選｜苦しさを生き抜いたからこその作品【代表作『放浪記』など】

林芙美子さんは昭和初期に文壇に登場した小説家です。多くの男性と浮名を流し、性格が悪いと陰口をたたかれ、川端康成は彼女の葬儀の場で「（芙美子さんは）ひどいことをした」と言ったほどですが、憎めない、魅力的な小説家でした。

彼女は、貧しさに苦しむ自分自身や市井の人々の姿を、リアリティにあふれた筆致で描き出しています。生きるのを決してあきらめず、生き抜かんとする力強さを感じさせる小説を発表し続けました。

この記事では、芙美子さんの小説おすすめ10選を中心に、人物像・略歴・小説の作風・代表作などをご紹介します。貧しさに負けず、雄々しく前を向いて歩いていく登場人物たちは、読者の心を惹きつけてやみません。

短編・長編合わせて数々の小説を世に送り出した芙美子さんは、どんな人物だったのか、にぎにぎしい男性遍歴をもつ芙美子さんは、どんな人生を送ったのか、人物像と略歴で彼女の人生を振り返ってみましょう。

芙美子さんは優しい性格ではなく、どちらかというと意地の悪い人でした。他の小説家の原稿を預かっておいて、編集者には渡さず「あの原稿ダメだって」と言うような嫌がらせも平気でやっていたようです。

華やかな恋愛遍歴から、人を惹きつける魅力があったと言われています。その反面、芙美子さんを嫌う人も大勢いました。

芙美子さんの年表をもとに、彼女の人生を追ってみます。お金に不自由のない幼少期を過ごしたのち、貧乏の苦しみを味わいながら流行作家への道が開けていく様子は、エピソードには事欠かない、波乱万丈の人生でした。

作家・林芙美子さんは、1903年、福岡県で婚外子として生まれました。実の父親は宮田といい、商才に長けていました。若松市で店を開き、熊本県・長崎県にも支店を出すほどの規模だったといいます。

芙美子さんは何ひとつ不自由のない生活を送っていたそうです。しかし、1910年の7歳のときにある事件が起こるのでした。

宮田が愛人を家に入れたため、店員の沢井と芙美子さんを連れて母・キクは家を出て長崎に移ります。同じ年に尋常小学校に入学、生活は沢井が興した古着屋が繁盛し、安定した生活を送っていました。

その後、九州や山口県を転々とする生活を送ります。沢井の店は倒産し、一家が最終的に落ち着いたのは広島県の尾道でした。

尾道の尋常小学校で芙美子さんの文才が見いだされ、女学校進学を勧められました。芙美子さんは夜や夏休みに働いて、自分で学費を払いながら女学校に通う日々を送ります。

芙美子さんは1919年の16歳のときに、一生の師となる今井篤三郎と出会ったのです。芙美子さんの短歌や詩が新聞に掲載されたのは18歳のときでした。

第1次世界大戦の終息とともに、「1920年恐慌」が起こり、日本は不景気に陥ります。女学校を卒業した芙美子さんは上京するも職を転々としていました。さらに1923年、関東大震災が起こり、20歳のときにいったん尾道に帰ります。

しかし再び上京、細々と働きながら、のちの『放浪記』につながる「歌日記」を書き始めました。

22歳のときには世田谷町太子堂から夜逃げをして世田谷町瀬田に移り住みました。翌年、芙美子さんはカフェーの住み込み女給として働き始めます。恋人の手塚緑敏（まさはる）とスピード結婚したのもこの頃です。

結婚してもカフェーで働きながら小説を書き続ける芙美子さんに、チャンスがやってきたのは1928年の25歳のときでした。

雑誌で連載した小説『秋が来たんだ―放浪記』が1930年に出版され、ベストセラーとなり、芙美子さんは一躍流行作家となりました。芙美子さんは母と姪2人を呼んで、手塚と5人で暮らし始めます。

1943年、順調満帆な仕事の一方で、男の赤ちゃんを養子に迎え、泰（たい）と名付けました。欲しかった理想の家族ができたのです。

エピソードには事欠かない芙美子さんの人生に陰りが差し始めたのは1950年ごろでした。泰が学習院初等科に入学するころ、芙美子さんの持病である心臓弁膜症が悪化します。

1951年、代表作のひとつ『浮雲』が出版されたのち、芙美子さんは帰らぬ人となってしまいました。死因は心臓麻痺で、享年49歳、早すぎる死でした。

芙美子さんは、自らの体験を題材として、貧しい女性が懸命に生き抜く姿を描いた作品を多く執筆しました。ひもじさもわびしさも蹴散らして、貧乏を冗談にしてしまうかのように生きていく女性を描きました。

貧しい庶民たちは登場人物たちの境遇や生き方に親近感を覚えたからこそ、多くの作品がたくさんの人に読まれたのです。「貧乏とは何か」を問い続ける芙美子さんの小説は、どうにか生きていける、と庶民たちに勇気を与えました。

芙美子さんの代表作『放浪記』『清貧の書』『浮雲』のあらすじについてご紹介します。『放浪記』は芙美子さんを一躍人気作家に押し上げた作品で、『浮雲』は芙美子さん存命中、最後に出版された小説です。

『放浪記』は1930年に出版され、ベストセラーとなった作品です。芙美子さんが細々と働きながら「歌日記」と名付けて1923年ごろ書いていた日記を題材として、『放浪記』が生まれました。

主人公は下働き、女中カフェーの女給と職を次々に変え、貧乏に喘いでいる女性です。どんなに貧困に苦しめられようとも、主人公が貧乏のみじめさを振り払って鋼のように強く生き抜いていく姿が、思わず引き込まれる文章で描かれています。

『清貧の書』は、24歳のころの芙美子さんを主人公に、手塚緑敏がモデルであろう小松与一との生活を描いた短編です。物語は2人が家賃8円の家から17円の家に引っ越すところから始まります。2人は食べる物がないような極貧生活を送っていました。

主人公は「とにかくふたりで長くやっていきたい」と願っています。小松が3週間ほど兵役に行き、主人公宛てに愛情あふれる手紙を何度も何度も送るのは、心温まるエピソードです。

第2次世界大戦時、タイピストとして農林省で働く主人公・ゆき子の愛と悲しい人生を、深く味わえる作品です。ゆき子は義弟と許されない関係を続けていましたが、振り切るようにベトナムへの赴任を希望します。

赴任先で出会った同僚の富岡と、新しい恋愛が始まります。富岡の心離れや心中未遂、終戦、ゆき子の妊娠など紆余曲折を経て、2人が行きついた先は屋久島でした。しかし、ゆき子は吐血し、永遠の眠りについたのです。

「花のいのちはみじかくて　苦しきことのみ多かれど」は、有名な句のフレーズです。他にも自らの人生を表した「私は宿命的に放浪者である」や、「泣くだけ泣かなきゃいい人間になれませんよ」といった名言を残しています。

「60、70になってほんとうのものが書けるようなきがする」は、小説家としての姿勢を感じる名言です。

芙美子さんの作品を朗読で聴けるツールがあります。そのうちのひとつ「kikubon」では、芙美子さんの童話『ひらめの学校』と『絵本』の朗読が聴けます。どちらも無料です。

YouTubeでも『生活』『白鷺』『月夜』『或る女』など多くの作品が聴けます。『放浪記』などの朗読を収録したCDも発売されています。

林芙美子さんのおすすめ小説12選を中心に、人物像などをご紹介しました。芙美子さんの小説からは、貧しさに負けずに生き抜いた、強い心が感じられます。人生の厳しさを乗り越えるパワーを与えてくれます。この機会にぜひ読んでみましょう。