この本には「菜の花の小娘」、「或る朝」、「網走まで」の3つの処女作品が収録されています。「菜の花の小娘」はアンデルセン童話を愛読していた作者が、その影響をうけたメルヘンチックな作品です。次に「網走まで」は作者自身が列車に乗った時の実体験に、想像を付加させて書かれた作品です。最後に「或る朝」は作者自身の祖母に対する親愛が深く感じ取れますし、「和解」や「暗夜行路」につながる作品構成だったりがあるのでそちらを読む前に一読することをおすすめします。
ここでは志賀作品の発端ともいうべき「菜の花の小娘」を紹介します。あらすじとしては、ある春の日小娘が山に行くと、一輪だけで咲いている菜の花が呼んでいるのに気づきました。一人ぼっちで寂しいという菜の花の言葉を聞いて、麓の菜の花畑へ連れていくことを約束します。そして、無事に少女の家の畑に植えられた菜の花は、多くの仲間と幸せに暮らしましたというものです。
この作品は、小娘の豊かな感受性と温かい心、菜の花との心の触れ合いが美しい作品です。そして、菜の花が水に流れる描写などは、精緻な観察による自然描写の確かさが見て取れ、後につながる志賀文学の特色もしっかり読み取れるのでおすすめです。